アスベスト(石綿)による健康被害者を救済するために支払われる弔慰金や医療費などの分担割合が、固まった。07年度から年間約90億円かかると算定、企業が約74億円、国と自治体で残りを担う。焦点となっていた企業側の負担は、全企業を対象とし、約260万に及ぶ事業所から労災保険料の料率を引き上げる形で約70億円を徴収する。さらに、石綿の使用量の多い「責任企業」4社から3.4億円を求める。全国各地に広がった石綿被害の救済は、産業界全体で負担する前例のない制度となった。

asahi.com:2006年08月30日06時06分
 救済対象者は石綿新法で決められており、石綿が原因の中皮腫(ちゅうひしゅ)や肺がんとなった患者や遺族のうち、労災保険が適用されない人で、石綿工場周辺の住民などが中心。弔慰金280万円、医療費などの救済総額を、10年度までに約760億円と試算した。うち、申請が集中した05年度末と06年度に約400億円、07年度以降は年間90.5億円程度が必要と見込み、企業側には07〜10年度に総額300億円程度を求めることにしていた。

 来年度以降の年間救済額のうち、73.8億円が企業側負担。うち(1)所在する(していた)市区町村の中皮腫の死亡者数が全国平均以上(2)石綿の累計使用量が1万トン以上(3)石綿による中皮腫・肺がんの労災認定が10件以上――という3要件すべてにあてはまる責任企業を「特別事業主」とし、石綿の輸入量全体に占める使用量の割合などから算定した3億3800万円の負担を求める。対象となるのはクボタ(本社・大阪市)やニチアス(本社・東京都港区)など4社とみられるが、企業名は公表しない。

 残り70.4億円は全企業で負担することとし、労災の保険料率を千分の0.05引き上げる。企業の負担増は、従業員6万人の大企業で年3000万円、従業員10人程度の企業なら3000円程度になるという。

 企業負担については、「石綿は高度成長を支えた面もあり、幅広い企業が恩恵を受けた」として、社会全体で責任を負う意味で労災保険のシステムを使い、全企業から徴収する。その上で責任企業には追加を求める2段階方式としたが、産業界から「納得のいく根拠を」と求められていた。

 環境省は7月に日本経団連常務理事や研究者らでつくる有識者会議で検討。ほぼ合意が得られたため、8月30日の同会議で、この枠組みでとりまとめる見通しだ。

 政府は11年度以降については、救済対象者が減少するとみており、この時点で負担割合も見直す考えだ。

 この枠組みについてクボタ広報室は「コメントできない」、ニチアス広報では「根拠に基づいた公平な決定なら尊重したい」としている。