フォレストパイングループ事件(東京地裁 平成28.9.13)
すでに消滅時効が成立しているとして未払賃金請求が斥けられた例

事案の概要
 被告と訴外TTI・エルビュー株式会社は、グループ会社であり、原告は、被告ではなく訴外会社の従業員であると認識しており、訴外会社も、原告に対し、平成24年2月25日から平成26年2月14日までの賃金に未払があることを認めていた。ところが、訴外会社が事実上の破産状態に陥ったため、原告は、平成27年ころ、新宿労働基準監督署に対し、未払賃金立替払制度に基づく支払を請求した。新宿労働基準監督署の調査に対し、被告が原告は平成25年以降、被告の従業員であり、同年9月以降の賃金を支払っていないことを認める説明を行ったため、原告は未払賃金立替払制度に基づく支払を受けることができなかったとして、被告に、平成26年2月14日までの賃金(支払期日は平成26年2月25日)の支払いを求めて、平成28年3月25日、提起した。

消滅時効について
(1)平成26年2月14日までの賃金の支払期日は平成26年2月25日(給与支給日)又はそれ以前であり、原告が本訴を提起した平成28年3月25日時点において、すでに2年間(労働基準法115条)が経過している。

(2)原告は、代理人弁護士が作成した、平成26年9月1日から平成27年2月14日までの期間、被告従業員であったことを前提に、当該期間の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める趣旨の通知書を発送し、被告は、本件通知書を受領した(平成27年9月25日)後、直ちに本件回答書を返送し(平成27年9月30日)、平成26年9月1日から平成27年2月14日までの期間に原告が被告に在籍していなかったことを回答しているにもかかわらず、原告は、通知書の誤りを直ちに訂正することすらしなかった。

(3)平成26年9月1日から平成27年2月14日までの期間に係る賃金請求権は、本訴請求債権(平成24年2月25日から平成26年2月14日までの期間に係る賃金請求権)とは「権利を行使することができる時」(民法166条1項)も異なる別個の債権である。通知書による請求は、数量的可分な債権のうち一部のみを請求する一部請求の場面とは異なり、別個の債権を請求したに過ぎないのであり、これと異なる本訴請求債権について、催告の効果が及ぶとはいえない。

(4)原告は、平成26年1月31日付けで、被告に対して退職届を提出したことが認められるのであって、平成26年2月25日以降に本訴請求債権を行使し、時効中断のための措置を取り得たことは明らかであるから、原告が時間的余裕をもって被告に対する権利行使をする機会を奪われたとはいえない。

(5)被告が、新宿労働基準監督署に対し、原告の使用者であることを自認したからといって、これが原告に対する本訴請求債権の承認の意思表示に該当するとはいえないし、原告が時効中断のための措置を取り得たことは明らかであるから、被告が請求債権の消滅時効を援用することを矛盾挙動と評価することはできないし、被告による消滅時効の援用が、信義則に反し、又は権利濫用に該当するというべき事情は見当たらない。