日本郵便事件 佐賀地判 平29.6.30 労経速2322号

概要
 集配業務の契約社員が、同業務の正社員とは不合理な待遇差があるとして、慰謝料等の支払いを求めた裁判で佐賀地裁は、正社員には契約社員にはない会議への出席やクレーム対応、局をまたぐ異動があり、職務内容や配置変更の範囲に大きな相違があると認定し、特別休暇の有無や賞与の計算式の相違は、長期雇用を前提としたインセンティブであり、不合理とは認められず、労働契約法20条に違反しないとした。

裁判所の判断
Y社の正社員は、郵便集配業務のみならず各部署で多様な業務に従事している。正社員は顧客からのクレーム対応を行うが、時給制契約社員がクレーム対応を行うことはなかった。年賀はがきの販売等の営業活動においても、正社員は営業成績や取り組み状況が人事評価項目の一つになっているが、期間雇用社員は昇給の判断基準とはされていない。正社員と期間雇用社員の間には、従事する業務の内容およびそれに伴う責任の程度に大きな相違がある。
また、正社員は、支社エリア内での配置転換や職種転換を命じられることがあり、正当な理由なくこれを拒むことはできない。これに対し、期間雇用社員は、各郵便局単位で募集が行われ、局をまたいでの人事異動は行われない。正社員と時給制契約社員の間には、職務の内容および配置の変更の範囲に明らかな相違がある。

賞与︓賞与の相違は、労使交渉の結果および郵政民営化前からの歴史的経緯によるところ、正社員と期間雇用社員の職務内容等に大きな相違が存すること、長期雇用を前提とする正社員に対し賞与支給を厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図る必要性があることを考慮すると、上記労働条件の相違は不合理なものとは認められない。

特別 休暇の不存在︓正社員は特別休暇(夏期・冬期で3日ずつ)を有給で取得できるところ、期間雇用社員にはこれらの制度が存在しない。正社員にかかる休暇を付与した趣旨は、定年までの長期にわたり会社へ貢献するインセンティブを付与することにより長期的な勤続を確保しているものであり、かかる労働条件の相違につき不合理であるとは認められない。
以上のとおり、労契法20条違反を理由とする不法行為の成立を認めることはできない。

※一方、日本郵便事件 東京地判 平29. 9.14 労経速2323号では、正社員の中に担当業務や異動等の範囲が限定されている新一般職という区分があり、コース別採用によりコース間の変更が原則認められていないこと等から、契約社員と比較対象とすべき正社員を正社員一般ではなく新一般職とした上で、正社員に支給される年末年始勤務手当・住居手当がまったく支給されない点、正社員に付与される夏期冬期休暇・病気休暇がまったく付与されない点を労契法20条違反と判断した。