国際自動車事件 東京高判平成30.2.15 労判1173号34頁
事実の概要
タクシー事業を営むY社のタクシー乗務員の歩合給は、揚高をもとに計算された対象額Aから割増金(深夜手当、残業手当、公出手当)と交通費を控除したものとして計算されており、時間外労働が行われても対応する割増金が歩合給から控除されるため、時間外労働の時間数に対応する賃金の増額は総額としてはないものとされていたため、Y社に勤務していたタクシー乗務員Xらが賃金規定の無効と控除された残業手当等に相当する賃金等の支払いを求めて提訴した。
裁判所の判断
歩合給の算定に当たり割増金を控除する旨を定めた本件規定は、売上げを伸ばすために長時間労働に陥りやすいタクシー業務の実態に即して、賃金面から乗務員に労働効率化の動機付けを与えて、非効率的な時間外労働を抑制し、効率的な営業活動を奨励しようとするものであり、Y社の乗務員の95%が加入する労働組合との協定に基づくものでもあるため、合理性を是認することができ、労基法37条違反またはその潜脱であるとするXらの主張は採用できない。
本件賃金規則に定められた賃金のうち、基本給、服務手当、歩合給の部分が通常の労働時間の賃金に当たる部分となり、割増金を構成する深夜手当、残業手当、公出手当が、労基法37条の定める割増賃金に当たる部分に該当する。これらの部分は明確に区分されて定められているといえる。通常の労働時間の賃金としての歩合給の算定に当たり割増金の控除を定めたとしても、通常の労働時間の賃金であることの性格を失わず、労基法37条の定める明確区分性には反しない。
本件賃金規則では、割増賃金として支払われる金額は、割増賃金控除後の歩合給ではなく、割増賃金控除前の対象額Aを計算の基礎とするから、割増賃金控除後の歩合給に相当する金額を基礎として算定する労基法37条等の割増賃金額を常に下回ることがない。したがって、本件の割増賃金の支払は、同条の支給要件を満たしているというべきである。
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