札幌交通(新賃金協定)事件 北海道労委 平29. 5.29命令

賃金体系変更協定に応じなかった組合員に対して、協定外残業および公休出勤を認めず、勤務シフトの変更に応じなかったことが不当労働行為に当たらないとされた例 

事件の概要 
被申立人札幌交通(株)は、雇用する従業員に対し、経営悪化を理由として、従前の賃金協定に代わり、オール歩合給制への変更、賞与の廃止等を内容とする賃金協定を提案し、新協定に調印しない乗務員には協定外残業、公休出勤およびシフト変更を認めないようになった。 
本件は、新協定に調印しない申立人自交総連札幌交通労働組合の組合員に対して行った平成27年7月21日からの協定外残業、公休出勤およびシフト変更の各制限が労組法7条1号等に該当する不当労働行為であるとして、労組から救済の申立てがなされた事案である。 

命令要旨
⑴ 「本件において、新協定に調印しなかった申立人組合員は、同年(平成27年)7月21日から同年11月20日までの間、旧協定を適用され、時間外残業についてはあらかじめ勤務シフトに組み込まれた協定内残業しかできず、協定外残業を一切禁止された。それに対し、新協定適用者は、協定内残業・協定外残業の区分がなくなって単なる残業となり、1日2時間を目安とした時間外残業が認められていたので、たとえば、新協定適用者が月22日勤務すると最大月44時間の時間外残業が可能になった。 また、公休出勤については、新協定適用者を旧協定適用者より優先的に公休出勤させる取扱いをした。そして、シフト変更については、新協定適用者にはやむを得ない事情があり、業務上の支障が大きくない場合には極力認めることにしたのに対し、旧協定適用者にはまず有給休暇を取得するよう指導し、シフト変更の申出を原則として受け付けない取扱いとした。 会社の取扱いは、上記の点において、旧協定適用者より新協定適用者を優遇する内容となっているから、新協定の調印に応じない申立人組合員らの組合活動に対する制約的効果を否定することはできず、不利益性がないということはできない。」

 ⑵ 「旧協定適用者に対し行った会社の取扱いは賃金等の労働条件の低下を内容とする新協定に調印して会社の再建に協力してくれる新協定締結者を不利に扱うわけにはいかないとの考えによるものであり、かかる取扱いをすることは予告されていた。 また、会社は、申立人組合員だけでなく、同じく未調印であった非組合員11名に対しても同様の取扱いをしている。 申立人組合が嘱託組合員についてのみ新協定に調印することを認めるよう要請したのに対し、会社が申立人組合の一括調印でないと認めない旨の回答をしたのは、申立人組合と申立人組合に所属する組合員について別異の取扱いはできないと考えたからであり、そのような対応は申立人組合に対してだけではなく、他の労組に対しても同様であった。 そうすると、申立人組合員が受けた不利益は、申立人組合が会社との交渉で自主的な選択をし、また、組合の方針ないし状況判断に基づいて選択した結果であるというべきであって、会社のかかる行為が申立人組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図が決定的動機として行われたと認めることはできない。」 

⑶ 「以上のとおり、会社が、同年7月21日から同年11月20日までの間、申立人組合員に対して協定外残業、公休出勤及びシフト変更を制限したことは、申立人組合員であること又は申立人組合が正当な行為をしたことを理由とした不利益取扱いであるとは認められないので、法第7条第1号に該当する不当労働行為であるとはいえない。」