イクヌーザ事件　東京地判　平成29年10月16日　労経速2335号

事件の概要
　基本給に組み込まれていた月80時間の時間外労働に対する固定残業代は無効である等と主張して、時間外労働および深夜労働に係る割増賃金およびこれに対する遅延損害金並びに付加金の支払いを求めた事例。

裁判所の判断
 裁判所は、固定残業代の定めが有効とされるための基準を、�仝柩儼戚鵑砲�ける基本給に80時間分の固定残業代が含まれることについて、雇用契約書ないし年俸通知書で明示している。
��給与明細においても、時間外労働時間を明記している。��80時間を超える時間外労働については、時間外割増賃金を支払っている。として、基本給のうち通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外労働の割増賃金の部分とを明確に区別することができると判断した。

 また、1カ月80時間の時間外労働が限度時間（平成21年5月29日厚生労働省告示316号による改正後の平成10年12月28日労働省告示154号「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」3条本文が定める限度時間（1カ月45時間）を大幅に超えるものであり、労働者の健康上の問題があるとしても、固定残業代の対象となる時間外労働の定めと実際の時間外労働時間数は常に⼀致するものではなく、固定残業代における時間外労働時間数の定めが1カ月80時間であることから直ちに当該固定残業代の定めが公序良俗に反すると解することはできないと判断した。
　
　上記により、裁判所は本件雇用契約における固定残業代の定めは有効と判断した。

※固定残業代が残業代の支払いとして有効と認められるか否かについては、明確区分性�―蠶蠧眥其發謀�たる部分と残業代 に当たる部分が明確に区分できること（高知県観光事件 最二小判 平6.6.13、テックジャパン事件 最⼀判 平24.3.8、国際自動車事件 最三小判 平29.2.28、医療法人Ｙ事件 最⼆小判 平29.7.7）、および対価性�⊆尊櫃忙超搬紊紡个垢訛于舛箸靴討寮�質を有することが要件とされている。

 固定残業代として組み込む時間外労働が長いと公序良俗違反として無効と判断されるおそれがあるが、本件では80時間分の時間外労働の組み込みが公序良俗に反しないと判断されており、公序良俗違反の判断は事例ごとの総合考慮であり、80時間までであれば常に公序良俗に反しないとの判断ではない。

　固定残業代を超える時間外労働に対する清算実態について、本件では明確区分性を肯定する一要素としたが、有効要件とはせず、近時の最高裁判例に沿った判断となった。